口内炎と思われる症状をお感じになりましたら、お早めに受診をご検討くださいませ。
早めの受診が難しい場合は、市販の口内炎適応のお薬を使用することもひとつと考えます。ただ、適応を誤ると、かえって症状の悪化を招くこともあります。
市販のお薬を使用し始めて、1~2日でかえって悪化する場合、または5~6日使用しても症状が緩和されない場合は、使用したお薬をお持ちのうえ、受診をご検討くださいませ。
また、痛みがなくても、2週間以上、口内炎のような症状が続く場合、それが口内炎とは異なる、よくない病気の可能性もございますので、受診をご検討くださいませ。
お口の中に、このようなお悩みはありませんか?
- 口内炎が、繰り返しよくできる。
- 食事や歯みがきなどをしているときに、口の粘膜が痛む。
- 風邪など体調を崩したときに、唇や口の粘膜にぶつぶつとしたものができる。
- 口の粘膜に白いすじ、もやもやとした模様がある。
- 口の粘膜の一部が赤く荒れている。しみる。
- 舌、頬の内側、上あごなどに、こすると取れる白いものがいくつもある。
- 口の粘膜に水ぶくれのようなものができた、と思ったら粘膜がすぐにつぶれたり剥がれたりして痛む。
- 口の粘膜に、白く消えないざらついたものがある。
など、上記でお悩みの方は、口腔粘膜疾患を伴っている可能性があります。
お気軽にご相談ください。
下記に、主な口腔粘膜疾患をお示しします。
主な疾患
再発性アフタ
口腔粘膜を誤って咬んだ覚えがない、あるいは誤って咬んだり傷つけたりしないような部位に、周期的に繰り返し痛みを生じることがあります。
原因がはっきりとしていれば、その原因治療を行うことが重要ですが、再発性アフタはその原因はいまだ不明とされています。
一般的な治療はステロイドを含有した軟膏の塗布などですが、いったん症状が消失しても再度繰り返し症状が現れてしまう傾向にあります。
当院では再発性アフタに対し、西洋医学的アプローチと漢方医学的アプローチを併用して、アフタとおからだの状態を考慮して、漢方エキス製剤を併用した治療も検討させていただくことがあります。
当院ではレーザー医療機器を所有しておりませんため、再発性アフタに対するレーザー照射療法は実施しておりません。ご了承ください。
ウィルス性口内炎
代表的なものにヘルペスや帯状疱疹があります。また、ヘルパンギーナや手足口病など、主にお子様に生じることが多い疾患が成人に生じることもあります。症状の初期には抗ウィルス薬の投与が有効なことがありますが、補助的な対症療法で症状の緩和を図ることもあります。
重篤な症状が示唆される際は、病院医科や口腔外科への紹介を検討させていただきます。
口腔扁平苔癬(へんぺいたいせん)
原因は明らかにされておりませんが、口腔粘膜に白いレースのカーテンのような模様が生じたり、発赤、潰瘍、水疱、白斑などといった、多彩な症状を呈するとされています。痛みは、生じる場合と生じない場合があります。
また、金属アレルギーやC型肝炎ウィルスなどとの関連も示唆されているとの報告がこれまでにもあり、明確な原因が考えられる場合の扁平苔癬様病変と区別されることがあります。
診断の確定に必要な病理検査の依頼を含めて、病院口腔外科への紹介を検討させていただく場合がございます。
口腔カンジダ症
お口の粘膜に存在する「カンジダ菌」という真菌(カビ)の一種により、お口の粘膜に拭える白い苔の塊のようなものが現れたり、お口の粘膜が赤く荒れたりします。それに伴いお口の粘膜に苦味や味覚の異常が生じたりすることもあります。
原因には、ドライマウス、口内炎、おからだの病気や、その病気に対する治療に使用するお薬の副作用に伴う免疫の低下あるいは抑制により生じる場合、また入れ歯にカンジダ菌が付着し、お口の粘膜に影響を及ぼすことなどが考えられます。
当院では、お口の症状の原因にカンジダ菌が疑われる場合には、直接鏡検(疑われる部位にある拭える白苔などの一部を採取、処理し、顕微鏡でチェックします)またはカンジダ簡易検出培地を用いた検査を検討いたします。
カンジダが確認できた際は、その除菌を目的に抗真菌薬の処方の検討いたします。また、入れ歯を使用しておられる患者さんでは、カンジダを溶かす酵素を配合した入れ歯の洗浄剤の使用が、症状の緩和に有効な場合もあります。一部の抗真菌薬は、おからだの病気で内服している薬によっては併用ができない場合がありますので、受診の際は内服しているお薬の情報の提供をお願いいたします。
自己免疫性水疱症(天疱瘡、類天疱瘡など)
原因はよくわかっていませんが、お口の粘膜や皮膚に水ぶくれが生じる病気です。
お口の粘膜は、水ぶくれができてもすぐに破れてしまうことが多く、びらん・潰瘍という症状になり、痛みや出血などを伴います。そのため飲んだり食べたりがしづらかったり、歯みがきがしづらくなることがあります。強い口臭を伴うこともあります。
皮膚科での検査・治療が主体となる病気ですが、お口の粘膜に先に症状が出ることがあり、とくに歯ぐきに症状が出ると、歯周病との見分けが難しく、歯医者さんで歯周病の治療のアプローチを行っても改善に至らないためにこの病気が疑われることもあります。
当院を受診された方で、自己免疫性水疱症(天疱瘡、類天疱瘡など)が疑われる際は、専門医療機関への速やかな依頼を行わせていただきます。
また、この病気の治療中における歯のブラッシングなどの口腔ケアは、普段通りになかなかできないことがあります。当院では、患者さんの通院が可能であれば、口腔ケアの方法などをご指導・サポートさせていただきたく思います。
白板症
口腔白板症は、WHO(世界保健機関)の診断基準1)では、「口腔粘膜に生じた摩擦に除去できない白色の板状あるいは斑状の角化性病変で、臨床的あるいは病理組織学的に他のいかなる疾患にも分類されないもの」とされています。
「前がん病変」とされており、口腔がんとの鑑別が非常に重要とされます。
大きさや状態によっては全身麻酔下に手術の適応となることがございますので、病院口腔外科への精査・加療依頼をさせていただきます。
参考図書および文献)
1)WHO collaborating centre for oral precancerous lesions : Definition of leukoplakia and related lesions : an aid to studies on oral precancer. Oral Surg 46 : 518-539,1978
2)口腔内科学 永末書店 2016
口腔がん(口腔の悪性腫瘍)
口腔粘膜にも、「がん」が生じることがあります。
初期は医療者でも口内炎と見分けがつきにくいことがあり、痛みがないと患者様自身でも様子をみてしまいがちかもしれません。
当院では口腔がんの確定診断や治療はできませんが、2017年9月の開院から2024年11月までの間に、「口腔がん」を疑い、医療連携をさせていただいております病院様へご紹介申し上げた方が、十数名いらっしゃいます。
患者様個人が特定されない程度に、その傾向をお示しいたします。皆様の口腔がん早期発見のための「気づき」の一助としていただけましたら幸いです。
- 【年齢】
40歳代前半から80歳代後半の方まで、幅広い世代でみられました。
- 【部位】
舌が最も多く、他には、歯ぐき(歯肉)、上あご(口蓋)、頬の内側(頬粘膜)にもみられました。
- 【自覚症状】
「刺激物のある食べ物がしみる」、「さわると痛む」という口内炎でもありがちな痛みの症状の方、痛みは無いけど「腫れている」、「できものがある」、という症状の方、また、他の症状で当院を受診してその診察中に偶然発見した例、つまり症状の自覚が無い方もいらっしゃいました。
- 【自覚症状から当院受診までの期間】
症状の自覚から2週以内と早めに受診をいただく方もいらっしゃれば、6か月から1年を過ぎてから受診いただく方もいらっしゃいました。
- 【当院受診のきっかけ】
比較的お若い年代の方は、当院のホームページをご覧いただき受診した方が多く、比較的ご高齢の方は、歯科診療所様から診察依頼をいただいた例が多かったです。
(院内資料より:2017年9月から2024年11月まで)
上記、皆様のご参考になりましたら幸いです。何か変だと感じたら、あるいはかかりつけ歯科様よりご指摘がありましたら、お早めに診察可能な医療機関様への受診が望ましいです。
性感染症(Sexually Transmitted Infection:STI)と
口腔粘膜疾患
当院でも、お口の粘膜と性感染症について、診療中に質問をいただく機会が多くなっております。
「性器にいる病原体が、オーラルセックスにより口腔内に感染を起こす」
「口腔内にいる病原体が、オーラルセックスにより性器に感染を起こす」
性器から口腔に感染した場合は、自覚症状が無いことが多いとされます。
ご自身が感染していることに気付かないまま、別の性交渉相手にオーラルセックスを介して性器に感染させてしまうことがあるとされています。
STIは一般的に男性では泌尿器科又は皮膚科、女性では産婦人科を受診することになります。また、口腔内の性感染症に関しては耳鼻咽喉科で診察している場合もあります。当院では性感染症に関する検査や治療は行っておりませんが、以下のような症状が疑われる際は、患者さんとご相談の上、各種医療機関への紹介を検討させていただきます。
以下、代表的なSTIを記載いたします。
クラミジア感染症
本邦で最も多いSTIとされています。
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- 原因
- クラミジア・トラコマティス
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- 全身症状
- 性交渉後、1~3週の潜伏期間を経て、
男性)尿道炎:症状は弱く、半数が気付かないまま保菌しているとされています。
精巣上体炎(陰嚢内容が腫れて痛くなる)で発症することもあるとされます。
女性)子宮頸管炎:この状態では気付かず、腹膜炎症状で発症することもあるとされます。無症状のまま卵管癒着等が起こり、不妊症の原因となり得るとされます。
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- 口腔粘膜症状
- 口腔粘膜よりも、咽頭違和感や乾性咳嗽(痰を伴わない乾いた咳)を生じることが多いとされます。
淋菌感染症
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- 原因
- 淋菌
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- 全身症状
- 性交渉後、2~7日の潜伏期間を経て、
男性)尿道炎
女性)子宮頸管炎:なかには自覚症状が無いまま骨盤腹膜炎で発症し、強い下腹部痛をきたすことがあるとされます。更に上腹部まで感染が進展すると肝臓周囲炎を起こし、激烈な上腹部痛をきたすことがあるとされます。
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- 口腔粘膜症状
- 淋菌は主に咽頭に感染しますが、歯肉・舌・頬粘膜に生じ、地図状舌様の変化が3週継続するとの報告や、口腔粘膜全体が発赤し黄白色の偽膜に覆われ、剥離すると赤い潰瘍があらわれ、急性炎症を生じるとの報告もあるとされています。
ヘルペス感染症
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- 原因
- 単純ヘルペスウイルス
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- 全身症状
- 性交渉後、2~5日の潜伏期を経て、
男性)亀頭や包皮
女性)陰唇を中心
痛みを伴う水疱・潰瘍を認めます。
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- 口腔粘膜症状
- 初感染では激しい歯肉炎・口内炎や咽頭炎を生じるとされます。とくに口唇、舌下面、咽頭に発赤、数個~多発する小水疱、これが破れて多数のアフタ、びらんや白苔が生じ、咽頭にも及ぶ例があるとされます。
自覚症状に、激しい咽頭痛、嚥下痛、38度の発熱を認めるとされます。
頸部リンパ節の腫脹も認めるとされます。
梅毒
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- 原因
- 梅毒トレポネーマ
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- 全身症状
性交渉後、約3週間の潜伏期を経て、
男性)陰茎亀頭部やその上の包皮
女性)陰唇部
上記に赤色で5~20mmの「初期硬結」という痛みのない硬い病変を認めます。
それは次第に崩れて、「硬性下疳(こうせいげかん)」と呼ばれる、痛みのない潰瘍となります。さらに両側の鼠径リンパ節の腫脹が出現するとされます。
症状は自然に緩解するとされますが、その後は全身感染となり、約3か月後には、手のひらや足の裏を中心に乾いた発疹が出現し、進行していくとされます。
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- 口腔粘膜症状
- 口腔粘膜にも、初期硬結が生じ、それが硬さを増しながら浅い潰瘍となり、頸部リンパ節の腫脹が出現するとされます。感染後3か月以降には、舌・頬粘膜・口蓋などに口腔粘膜疹が出現し、次第に乳白色の斑がみられるようになるとされます。
HIV感染症
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- 原因
- HIVウイルス
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- 全身症状
- 性交渉による感染成立後、
・感染初期(急性期:2~4週):
発熱、全身倦怠感、咽頭痛、筋肉痛が出現するとされます。
・無症候期(6か月~10年):
この時期に、後述する口腔粘膜の症状の出現によりHIV感染症の診断につながることが多いとされます。
・AIDS発症期:
免疫力がさらに低下すると、日和見感染により細菌、ウイルス、真菌(カビ)に感染したり、悪性腫瘍が出現したりすることがあります。
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- 口腔粘膜症状
- 口腔粘膜の症状は、無症候期~AIDS発症期の初発症状として表れる頻度が高いとされ、HIV診断のきっかけとなることがあります。その症状には、偽膜性カンジダ症、口腔毛様白板症、HIV関連歯肉炎・歯周炎、カポジ肉腫、非ホジキンリンパ腫、唾液分泌量低下に伴うドライマウスがあるとされます。もっとも多いのは口腔カンジダ症とされています。
参考)
厚生労働省ホームページ:
・性感染症
・オーラルセックス(口腔性交)による性感染症に関するQ&A
国立感染症研究所ホームページ
余田 敬子 口腔咽頭に関連する性感染症 日耳鼻 118 :841-853 ,2015
性感染症診断・治療ガイドライン 2016 日本性感染症学会
口腔内科学 永末書店