再発性アフタ
再発性アフタは、「アフタ」と呼ばれる、いわゆる「口内炎」を繰り返す病気を指します。
再発性アフタは、全身の病気である「ベーチェット病」「スウィート病」「クローン病」などに伴う口の症状としてみられることがあります。
一方、全身の病気はなくても、再発性アフタは生じることがあり、すべての口腔粘膜疾患のうち、最も頻度が高いものとされます。
その原因はまだはっきりとしてません。過労や精神的ストレス、胃腸の病気、ビタミンの不足、ウイルスや細菌感染、薬剤アレルギー、自己免疫疾患などが、その可能性として挙げられているようです。
患者さんが受診するきっかけとなる症状
- 誤って咬んでもいないのに、気づいたら口内炎ができる・治るを繰り返す
当院での対応
診察から、全身の病気による再発性アフタが疑わしい際は、専門となる医科への精査加療依頼を検討します。
全身の病気が関連しなさそうな再発性アフタと診断した際は、患者さんと相談の上、お口の中を清潔に保つことやアフタへの刺激を避けるための生活指導や洗口液、液体絆創膏の提案、および一般的とされる薬物療法(ステロイドを含んだ塗り薬、口内炎パッチ、含嗽薬、鎮痛薬、活性型ビタミン B 2 製剤投与など)を必要により処方検討、さらにアフタができにくくなることを目標に、口内炎に効能または効果が定められている漢方エキス剤を、使用目標(証:しょう)を参考に処方することも検討いたします。
また、レーザー照射療法により痛みを和らげる方法もありますが、当院はレーザー医療機器を所有しておりませんため、再発性アフタに対するレーザー照射療法は実施しておりません。ご了承ください。
【参考】
・口腔内科学 永末書店 2016年
・レーザー応用による再発性アフタ性口内炎治療に関する基本的な考え方 日本歯科医学会 2018年
ウイルス性口内炎
ウイルスによる口内やお口のまわりの炎症症状には、単純ヘルペスウイルス感染症(ヘルペス性歯肉口内炎、口唇ヘルペス)、帯状疱疹、手足口病、ヘルパンギーナなどがあります。
患者さんが受診するきっかけとなる症状
- 急に口の中全体に、または片側だけに、小さな水ぶくれ(水疱)やただれ、口内炎のような症状がたくさんあらわれた
- 風邪を引いた、仕事や学業で疲れがたまっている、など体調を崩したときに、唇やその周囲にブツブツとした、小さな水ぶくれのようなものができた
- 子供が手足口病またはヘルパンギーナになり、看病していたら、自分も同じような症状が出てきた
当院での対応
単純ヘルペスウイルス感染症およびお口に限った帯状疱疹に対しては、抗ウイルス薬を処方し、定められた日数を服用していただくことを検討します。お薬は症状が出現してから早く始めたほうが効果があるとされます。手足口病やヘルパンギーナは、お子様の場合は小児科を受診することが多いかと存じます。成人の方でこれが疑われる際は、抗ウイルス薬はないため、対症療法を検討します。また、帯状疱疹は神経痛が残ることがあります。その際は専門科への精査加療依頼や受診勧奨を検討いたします。
【参考】
・口腔内科学 永末書店 2016年
口腔扁平苔癬(へんぺいたいせん)
口腔扁平苔癬は、口の粘膜に網状または斑状の白い病変があり、軽度のざらつき(角化異常)を伴い、慢性に続く炎症とされています。時にただれ(びらんや潰瘍)を伴った赤い病変となります。原因は不明とされます。病因に関する主な説には、抗原特異的細胞性免疫説、自己免疫説、非特異的発症機序説、ウイルスまたは細菌感染説、精神的ストレス説などが挙げられており、治りにくい疾患とされています。「口腔潜在的悪性疾患」のひとつとされ、口腔がんを発症する可能性が0~3.5%との報告があります。
患者さんが受診するきっかけとなる症状
- 口の粘膜に、痛みはないが、ざらつきや突っ張りといった不快感
- 口の粘膜が、歯磨剤や刺激のある食べ物でしみる
- 痛みや違和感はなかったけど、歯科健診や歯の治療などで偶然、歯医者さんで見つかった
当院での対応
原因が不明のため、対症療法として、痛みなどの症状を弱めることを目標に、お薬(主に外用薬)を用いることが多いです。
診察の上、明らかな悪性所見に乏しければ、対症療法でステロイドを含んだ外用薬やアズレンスルホン酸ナトリウムという成分を含んだうがい液などでの対応を検討し、慎重な経過観察を検討します。
もしも口腔がんへの変化の可能性を疑う際は、細胞診の実施あるいは病院口腔外科への速やかな精査加療依頼を検討いたします。
【参考】
・口腔扁平苔癬全国調査に基づいた病態解析および診断基準・治療指針の提案 2015年12月 口腔扁平苔癬ワーキンググループ
・口腔扁平苔癬研究の現況と将来の展望 2024年6月 日本口腔内科学会 第二期口腔扁平苔癬ワーキンググループ
口腔カンジダ症
口の粘膜に、もともと存在する「カンジダ菌」というカビ(真菌)が増えることにより、歯垢(デンタルプラーク)に似たような見た目の白い塊のようなものが現れたり、お口の粘膜が赤く荒れたり、痛みや不快感、苦味や味覚の異常が生じることもあります。
その原因に、ドライマウス(口の乾燥)、口内炎、全身の病気やその病気の治療薬(ステロイドや免疫抑制剤)の副作用による免疫低下、また入れ歯にカンジダ菌が付着し、口の粘膜に影響を及ぼすことなどが考えられます。
患者さんが受診するきっかけとなる症状
- 口の粘膜は荒れている
- 口の粘膜に、こすると取れる、白い塊のようなものができる
- 口の粘膜が白く汚れていて気持ち悪い
- 口の中が苦く感じる
当院での対応
診察の上、直接鏡検(疑われる部位にある拭える白苔などの一部を採取、水酸化カリウム(KOH法)で処理し、顕微鏡でチェックします)により迅速な検査を行うか、それが難しければ、カンジダ簡易検出培地を用いた検査(判定までに数日要します)を検討いたします。
治療は、抗真菌薬の処方の検討いたします。また、入れ歯を使用しておられる患者さんでは、カンジダを溶かす酵素を配合した入れ歯の洗浄剤の使用が、症状の緩和に有効な場合もあります。一部の抗真菌薬は、全身の病気や、内服している薬によっては併用ができない場合がありますので、受診の際はお薬の情報の提供をお願いいたします。全身状態のために口腔カンジダ症の症状を繰り返す方、お薬が使えない方では、スポンジブラシによる口腔粘膜の清掃も、悪化をさせない意味ではよいかもしれません。
自己免疫性水疱症:天疱瘡(てんぽうそう)、類天疱瘡(るいてんぽうそう)など
口の粘膜や皮膚に水ぶくれ(水疱)が生じる病気です。口の粘膜の水疱はすぐに破れてしまうため、ただれ(びらんまたは潰瘍)になります。自分で自分のからだを攻撃してしまう、自己抗体というものがつくられてしまい生じる病気(自己免疫疾患)です。そうなってしまう原因は不明とされます。
患者さんが受診するきっかけとなる症状
- 口の粘膜に水ぶくれのようなものができた、と思ったら粘膜がすぐにつぶれたり剥がれたりして痛む
- 口の中が全体的にひどくただれており、皮膚に水ぶくれ(水疱)ができる
- 口の中だけでなく、眼や性器などにもただれが出る
- 歯ぐきがただれているので、歯周病だと思って歯科を受診したが、歯周病は悪くなく、別の口内炎の病気だと言われた
当院での対応
早急に病院の皮膚科または口腔外科など専門医療機関へ精査加療依頼を検討いたします。その後の歯みがきや口内のケアが難しい場合は、そのお手伝いやご指導を検討いたします。
多形滲出性紅斑
上記の自己免疫性水疱症と類似していますが、唇や口の粘膜、眼、鼻、性器などに、紅斑や丘疹、水ぶくれ(水疱)、ただれ(びらんまたは潰瘍)などが出現する病気です。重症では発熱やだるさ、全身の皮膚や粘膜に症状を呈します。
正確な病因やメカニズムは不明とされますが、きっかけとなるのが薬剤(消炎鎮痛剤、抗菌薬、抗けいれん薬など)やウイルス感染症(ヘルペス属ウイルス、マイコプラズマ)とされています。重症型とされるものには、中毒性表皮壊死剥離症(TEN)・粘膜皮膚眼症候群(Stevens-Johnson症候群)・薬剤性過敏症候群・急性汎発性発心性膿疱症などに分類されるようです。
患者さんが受診するきっかけとなる症状
- 発熱や倦怠感がない軽症例では、前述の自己免疫性水疱症と類似していると思われます。
当院での対応
自己免疫性水疱症と同様、早急に病院の皮膚科または口腔外科など専門医療機関へ精査加療依頼を検討いたします。歯みがきや口内のケアが難しい場合は、そのお手伝いやご指導を検討いたします。
【参考】
・口腔内科学 永末書店 2016年
白色海綿状母斑
口の粘膜がスポンジ状(海綿状)に厚くなる白色の病変です。遺伝性の病気といわれご家族で同じ症状がみられることがある一方、とくに遺伝がなく症状が出現している方もいらっしゃいます。ケラチンという角質をつくるタンパク質の変異によるとされています。
患者さんが受診するきっかけとなる症状
- 口の粘膜が白く、ザラザラしている
当院での対応
診察の上、白色海綿状母斑に類似した疾患(口腔扁平苔癬、白板症、口腔カンジダ症、口腔がんなど)が疑われる際は、当院で可能な検査(口腔カンジダを鑑別目的とした顕微鏡検査、細胞診など)の実施、または病院口腔外科への精査加療依頼を検討いたします。また、根本的な治療法は確立されていないとされます。学術論文では、抗菌薬による軽快や消失の報告例もございますが、白色海綿状母斑は適応外のため、保険適用外における使用のメリット・メリットを十分に考慮の上、慎重な対応が必要であろうと考えます。
【参考】
・井染洋ら マクロライド系抗菌薬少量長期投与が奏功した白色海綿状母斑の1例とその家族例 日本口腔外科学会雑誌 Vol.65 No.12 2019
白板症
口腔白板症は、WHO(世界保健機関)の診断基準1)では、「口腔粘膜に生じた摩擦に除去できない白色の板状あるいは斑状の角化性病変で、臨床的あるいは病理組織学的に他のいかなる疾患にも分類されないもの」とされています。
「前がん病変」とされており、口腔がんとの鑑別が非常に重要とされます。
大きさや状態によっては全身麻酔下に手術の適応となることがございますので、病院口腔外科への精査・加療依頼をさせていただきます。
参考図書および文献)
1)WHO collaborating centre for oral precancerous lesions : Definition of leukoplakia and related lesions : an aid to studies on oral precancer. Oral Surg 46 : 518-539,1978
2)口腔内科学 永末書店 2016
口腔がん(口腔の悪性腫瘍)
口腔粘膜にも、「がん」が生じることがあります。
初期は医療者でも口内炎と見分けがつきにくいことがあり、痛みがないと患者様自身でも様子をみてしまいがちかもしれません。
当院では口腔がんの確定診断や治療はできませんが、2017年9月の開院から2024年11月までの間に、「口腔がん」を疑い、医療連携をさせていただいております病院様へご紹介申し上げた方が、十数名いらっしゃいます。
患者様個人が特定されない程度に、その傾向をお示しいたします。皆様の口腔がん早期発見のための「気づき」の一助としていただけましたら幸いです。
- 【年齢】
40歳代前半から80歳代後半の方まで、幅広い世代でみられました。 - 【部位】
舌が最も多く、他には、歯ぐき(歯肉)、上あご(口蓋)、頬の内側(頬粘膜)にもみられました。 - 【自覚症状】
「刺激物のある食べ物がしみる」、「さわると痛む」という口内炎でもありがちな痛みの症状の方、痛みは無いけど「腫れている」、「できものがある」、という症状の方、また、他の症状で当院を受診してその診察中に偶然発見した例、つまり症状の自覚が無い方もいらっしゃいました。 - 【自覚症状から当院受診までの期間】
症状の自覚から2週以内と早めに受診をいただく方もいらっしゃれば、6か月から1年を過ぎてから受診いただく方もいらっしゃいました。 - 【当院受診のきっかけ】
比較的お若い年代の方は、当院のホームページをご覧いただき受診した方が多く、比較的ご高齢の方は、歯科診療所様から診察依頼をいただいた例が多かったです。
(院内資料より:2017年9月から2024年11月まで)
上記、皆様のご参考になりましたら幸いです。何か変だと感じたら、あるいはかかりつけ歯科様よりご指摘がありましたら、お早めに診察可能な医療機関様への受診が望ましいです。